キャンセル・カルチャーに抗議する著名文化人の公開状、JKローリング参加でまた物議

 

 「性の多様性」うんぬんより、「言論の自由」に関しての問題にもなってきているJ・K・ローリングの炎上騒動。なんのことやら・・・?という方は是非過去記事をどうぞ。

 このあと、またまた物議をかもす展開があったようです。

著名文化人のグループ、キャンセル・カルチャーに抗議

 主に作家や学者からなる著名文化人約150人の署名による以下の公開状が雑誌ハーパーズ・マガジン誌に発表されました。

 ちなみに「公開状」とは、世間一般の批判や意見を求めながら、ある団体や個人に向けて、新聞、雑誌などに公開掲載する書状で、英語で「Open Letter(オープン・レター)」と呼ばれているもの。SNSという世間一般とすぐに繋がることできて、頼みもしないのに批判も意見も飛び交っている世の中で、公開状という方法はもう存在意義はないんじゃないのか、という言い分も最近聞いたりしますが、今回のように「一人が発起人となって草稿を書き、世論にインパクトがありそうなレベルの著名人から賛同の著名を募って発表」という形式には、まだ使える発信方法なのかもしれません。

公開状の内容と背景

 いろいろ書かれていますが、要は「はっきり意見を言ったらネットで袋叩きにあう、社会的に村八分になる」という風潮や、いわゆる「キャンセル・カルチャー(Cancel Culture)」(SNSの力を利用した大衆による一種のボイコット運動、気に入らない人を社会的に抹殺することが目的)が幅を利かせていることに対する憂慮を訴える内容です。

「正義は大事だけどやりすぎだろ!? 自分と違う意見にも耳を傾けるべきだよ。寛容さはどこに行った? 自由に議論することの大切さを忘れたのか??」

と、訴えているような内容です。

 発起人のジャーナリストが、この公開状作成のきっかけになった出来事としていくつか挙げているのが、ブラック・ライブズ・マターの抗議運動の行き過ぎの結果です。

・詩人のための基金だか財団だかのトップが「マイノリティにあんまり金を使っていない」「BLMの抗議行動支持の声明文に手抜き感がある」という理由で辞任に追い込まれた

・文芸批評家団体の理事が、その団体のマイノリティ支持声明発表文の一部に「ここはちょっと違うくないか」と言っただけで「クビにしろ」署名が回った

・データアナリストDavid Shorが「暴徒が多かった抗議運動より平和な抗議活動のほうが、その後の選挙で抗議内容を反映した選挙結果になりやすい」というような学術論文を引用したツイートをしただけで、Twitter上で解雇を求める運動が起こり、一週間後クビ。

 つまり、ブラック・ライブズ・マター絡みの活動は、全面的に支持しないといけない、少しの問題提起も許さない、全面支持しない人は社会的に活動できなくなるという風潮、これはいかがなものか。そんな疑問を感じて、なんとかしなくてはいけないと思って動いたというのが、公開状の発起人の動機のようです。人種間不平等の問題も、LGBTQ+に関する話題と同じく、かなりセンシティブな扱いで、めったなことは言えない黙ってた方がいい・・・という空気、確かにありますね。

 しかし、それを「行き過ぎだろ?」と言えるのは、その発起人ジャーナリストがマイノリティ人種だからできたことですね。白人には許されません。

公開状の発起人であるジャーナリストのWikipediaのページより。
まるでモデルのようなプロフィール写真ですよね

 この公開状、まっとうなことを言ってるし支持したいんですけど、ここ要りますかね?

The forces of illiberalism are gaining strength throughout the world and have a powerful ally in Donald Trump, who represents a real threat to democracy.

(反自由主義の力は世界中で強さを増し、民主主義の真の脅威を象徴するドナルド・トランプという強力な味方を得た。)

 この一文で公開状全体が台無しのような・・・。「違う意見にも耳を傾けよう」って訴えるなら、トランプ支持者の声にも耳を傾けなくちゃいけないんじゃないの? 言ってる事の正当性が・・・。絶対にトランプ支持者がギャーギャーつっこむと思います。SNSでまた揉める。だから、いつも言ってるのに。発表する前に私に相談して、って。

公開状の署名メンバー

  この公開状に署名した(つまり賛同した)人たちがこれまた豪華な顔ぶれで、有名どころではノーム・チョムスキー、サルマン・ラシュディ、マーガレット・アトウッド、スティーヴン・ピンカー、マルコム・グラッドウェルなどなど。読書好きの方なら、「おお!そのメンツをよく集めた」というような顔ぶれです。ハーヴァードとかイエールとか有名大学の学者さんもいっぱい。個人的には、ジャズ・トランぺッターのウィントン・マルサリスが入っているのが、他のメンバーとちょっと属するコミュニティが違う感じなので意外でした。チェスの世界チャンピオンのカスパロフさんが入っているのも面白い。

 しかし、上述の誰よりも、署名したことで話題になっている人と言えば・・・J・K・ローリングです!! また出た!!!

 発起人の彼は、この公開状作成の背景となったできごとに彼女の炎上ケースは入れていませんでしたが、タイミング的に彼女をかばっているようにとられても仕方ない。

 J・K・ローリングご本人も大喜びで「公開状に署名したわ!誇りに思っている」とツイート。あんたがそうやってつぶやくたびに揉めるんだからそういうのやめな、って私があれだけ前回の長文ブログで書いたのに。どうして読んでくれないの?

JKローリングのツイート
「開かれた議論、思想と言論の自由という自由社会の根本原則を守るために、この公開状に署名した。誇りに思っている」

 だからそういうのがダメなんだって、そんなにツイート好きなの?

 Twitterに関しては、80歳のマーガレット・アトウッドのほうがよっぽどうまい距離感で楽しくやっているという・・・。JKRよ、偉くなり過ぎちゃって、誰も忠告してくれる人がいないの?

JKローリングのせいで署名を取り消す人も

 署名した150人の文化人の中には大慌てで、「 J・K・ローリングが入っていること知っていたらやめていた、JKRの主張をサポートしているわけじゃない」と発表する人も。公開状に入って後悔! 実際、署名を削除した方もいるそうで・・・。どれだけ嫌われているんだ、 J・K・ローリング。

 ネットの反応も、公開状に「何が書かれているか」より「誰が署名したか」のほうに関心が集まってしまっています。

公開状「キャンセル・カルチャーをキャンセルしよう!もうそういうのやめよう!」

反応「うるせー!公開状に入ってる奴らはキャンセルだな」

 なんか、こういうコントありませんでしたっけ?

 そんな中、JKローリングと共に署名したことを批判され、釈明するツイートを発表した作家ジェニファー・フィニー・ボイラン(Jennifer Finney Boylan、トランスジェンダー作家)に対して、反応したマルコム・グラッドウェルが秀逸です。以下、彼らのツイート。

ジェニファー・フィニー・ボイラン:

I did not know who else had signed that letter. I thought I was endorsing a well meaning. If vague, message against internet shaming. I did know Chomsky, Steimen, and Atwood were in, and I thought, good company. The consequences are mine to bear. I am sorry. 

(ほかに署名した人が誰なのか知らなかったんです。善意、例えばネット上の吊し上げに反対するメッセージを支持していると思っていました。チョムスキー、スタイネム、アトウッドが入っていることを知って、いいメンバーだと思ったんです。こうなった責任は私が負うしかない。申し訳ありません。)

グロリア・スタイネム、アメリカの上野千鶴子先生みたいな方

マルコム・グラッドウェル(上記のボイランのツイートを引用して):

I signed the Harpers letter because there were lots of people who also signed the Harpers letter whose views I disagreed with. I thought that was the point of the Harpers letter.

(ハーパーズ・マガジンの公開状に署名したのは、自分とは意見が合わない人たちもたくさん署名していたから。この公開状の言いたいことってそういうことだ思うんだけど。)

マルコム・グラッドウェルのツイート「」
マルコム・グラッドウェルのツイート

 さすがグラッドウェル。ますますグラッドウェルが好きになりました。(グラッドウェルの本、面白いので皆さんも気が向かれたら是非。日本にも翻訳されています!)

トランスjジェンダー・コミュニティとJKRが歩み寄り、互いに有益な対話ができるような日は来るのでしょうか。この公開状に対する反応を見る限り、遠い道のりのように感じます。今後も経過を見守りたいと思います。

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