元祖・ロマンス小説の表紙男ファビオ様、そしてファビオ様を抜いたバカ

  前回の「ロマンス小説 Vs ラブストーリー」の記事にも書きましたが、私にはアメリカのロマンス小説の表紙の男が全員同じに見えます。

 皆さんもうちょっと個性を出せないものか、と思うくらい同じような顔やポーズで一年中寒くても暑くても脱いでいる人たち。アメリカのロマンス小説のターゲット読者のストライクゾーンは狭いということか。

 しかし、実際に同じ男性が繰り返し使われていたとは!

ロマンス小説の顔、ファビオ


 皆さんは冒頭の画像の男性「ファビオ」をご存知でしょうか? なんでもアメリカではお茶の間で「ファビオでしょ」「ああ、あのファビオね」「ロマンス本の男ね」というくらい知名度が高い方だそうです。(すみません、私はアメリカ人の家族もボーイフレンドもいないので、今まで知りませんでした)

 ファビオ・ランゾーニというフルネームからわかる通り、イタリア系移民の男性モデルで80年代~90年代にかけて、400冊のロマンス小説の表紙を飾った、まさに「ロマンス本の顔」。ファビオが売れるまでは、ロマンス小説の表紙の男性モデルは無名で注目もされない存在だったとか。彼自身にとってもロマンス小説の表紙を飾ることは、モデル業の一つの仕事に過ぎなかったのですが、ある時パーティーで編集者に「あなたが表紙に出ている本は良く売れる」とこっそり言われ、そこに可能性を見出した彼はその「他より売れている」というデータを手にロマンス小説関係者に売り込みをかけます。そしてその後、10年以上に渡ってロマンス小説の表紙で自慢の長髪をなびかせながら半裸でポーズをとりまくり、乙女たち(何歳でもそう呼びましょう)のハートをがっちり掴みました。

 セックスシンボルとなったファビオは、CDデビュー、ファビオのロマンス小説朗読ダイヤル(!)開設、ファビオグッズ販売、俳優業やテレビ出演、そしてなぜか「I can't believe it's not butter(バターじゃないなんて信じられない)」というマーガリンのスポークスマン等々、お茶間への快進撃を続けました。

ファビオの声が聴きたい!という乙女が多かったのでしょう

 ロマンス小説の知名度を上げ、売り上げに大貢献した最初の男性モデル、ファビオ。ロマンス小説を読まない人でもファビオの顔と名前は知っている・・・、アダルトビデオは観ないけど飯島愛さんや蒼井そらさんは知っている、みたいな感じ? 

ファビオ様の表紙の数々

 それでは、ファビオ様の華々しい表紙の代表作の数々をどうぞ! すごいですよ。笑ってはいけません。モデルさんたちは真剣です。

『Savage Promise』(by Cassie Edwards)

凍てつくアラスカで先住民男性に命を救われたヒロイン。燃え上がる愛! どこまでもあなたについていくわ~! という感じのストーリーらしい。アラスカでこの格好。風呂上り?

危ない! 愛が燃え上がり過ぎて髪に火が!

『Savage Thunder 』(by Johanna Lindsey)

セクシーなアラスカ先住民との愛、再び! すがりつく女にケリを入れている・・・わけではない。

着ている意味が感じられない小さすぎる上着

『Warrior’s Woman』(by Johanna Lindsey)

ロマンスとSFとファンタジーが融合! 時空を超えて旅する女戦士が、野蛮な男性とのめくるめく愛に目覚める!! ・・・なにやらすごそうなストーリーです。

老けた衣装ビリビリのアリアナ・グランデを抱き寄せるファビオ様!

『Captive Rose』(by Miriam Minger)

シリアを舞台にハーレムにとらわれ奴隷のように調教されている彼女を放ってはおけない!必ず俺が助け出す!という歴史ロマンスの様子。女性の下着(?)は一体どういう構造なの?

腰ミノ姿で酔っぱらい介抱中!


 完全に時代遅れになったこれらの表紙は、現在はもうちょっと控えめなカバー画に置き換えられている様子。80年代~90年代のほうがエロさでは攻めてますね。ネットでは、あまりに現実離れした表紙アートたちを一般人が真似して遊んでいる「Regular People Recreate 10 Corny Romance Novel Covers And It’s Hilarious」なんていう企画もありましたよ。見てみましたが・・・プロのモデルのすごさがわかりました。でもみんな楽しそうです。

ファビオの後継者、バカさん

 そして、ここまでみんなを熱狂させたファビオがカバーモデルを引退した後、登場したのがジェイソン・アーロン・バカ(Jason Aaron Baca)さん。日本では別の芸名を用意したほうがいいでしょう。Bacaは別の読み方であってほしい・・・と願ったのですが、ニュース出演時の映像では本当にバカバカ連呼されていました。

Googleさんによるバカさんのイメージ検索の結果

 しかし、バカさんは、かなり残念な名前とは裏腹に、ファビオの表紙登場記録を抜いて約10年で600冊のロマンス小説の表紙を飾ったすごいモデルさんです。しかも、「ファビオを抜こうとかそういう気持ちでやってきたわけじゃない、ひとつひとつを積み重ねたらこうなっただけ」などとファビオ・リスペクトをきちんと見せる謙虚で堅実な男性です。残念ながらバカさんも2019年に表紙モデル業の引退を発表しましたが・・・。

 バカさんは、当初は俳優を目指していたけど、才能の無さからモデルに転向。本屋でロマンス小説を見かけ、自分も表紙になれるんじゃないかと考え、自身の写真入りの手紙80-90通をロマンス小説作家たちに送って表紙に自分を使ってくれと売り込んだとのこと。その中の一人の作家が「ちょうどあなたみたいなルックスの主人公の小説を書いている」と返事をくれてロマンス小説の表紙モデルデビューをしたそうです。積極的に動けばチャンスが来る、なんかアメリカっぽい話です。

 しかし、好調なロマンス小説の売り上げに対し、男性の表紙モデルはそれほど稼げる仕事ではない様子。「With Romance Novels Booming, Beefcake Sells, but It Doesn't Pay (ロマンス小説ブームでムキムキ男性大人気、しかし稼げず)」というニューヨークタイムズの記事によると…

Mr. Baca, for example, works at the Housing Authority of the Santa Clara County, Calif., as a customer-service clerk. And although he has an agent, he said he earned only $20,000 in his best year. 

(バカ氏はサンタ・クララ群で住宅局のカスタマーサービスの事務員として働いている。代理人がいるモデルであるにも関わらず、バカ氏曰く一番良かった一年でもたった200万円の稼ぎだったそうだ。)

 売れっ子のバカさんでさえ、表紙モデルとして一番稼いだ年の収入は約200万円・・・。そんなBacaな! Bacaにされてる・・・?わけではないですよね。バカさんは、表紙モデルで売れてちやほやされてもDay Job(日々の糧を稼ぐ9時5時の仕事、みたいな意味)をちゃんとキープしていた普通の人だったようです。Bacaではなかったということですね・・・(しつこい)。モデルは副業だったのか・・・厳しい世界です。

 とにかくファビオを発見してからおもしろくて、ロマンス小説の表紙を徹底捜査してしまい、望んでいないのに詳しくなってしまいました。ここまでいろいろ書いてるんだから、ファビオ表紙の一冊を読んでみるかなあ、と米国アマゾンで「なか見検索」で読めるところまでためしに読んでみたのですが、最初の数ページだけでもなんかやる気無くなるくらい結構英語が難しかった。あれです、日本の官能小説とかエロ小説でもやたら高尚な言葉とか読めない漢字熟語使ってるヤツあるじゃないですか。あんな感じでした。ロマンス小説は、英語読書初心者向けじゃないですね。もっと英語力を磨いてから、ロマンスのめくるめく世界に酔いしれてみたいと思います。

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