『Out Of Darkness』被差別人種のティーンの真剣交際の行方は・・・? アメリカの図書館で苦情殺到のヒストリカルYA小説

 


社会派YA+歴史フィクション+ラブストーリー

 アメリカ人作家、オハイオ州立大学助教授でもあるアシュリー・ホープ・ペレス(Ashley Hope Pérez)による、2015年9月刊行の三作目のYA小説。2016年のマイケル・L・プリンツ賞(YA小説版アカデミー賞みたいな感じ)の佳作受賞で評価も高い一作です。

 作者の出身地であるテキサス州を舞台に、1930年代に実際に起こったニューロンドン学校爆発事故の周辺で「こんなことがあったかもしれない」と作者が想像を膨らませて描いた歴史フィクション。物語の主人公は、メキシコ系アメリカ人の女子高生で、複雑な生い立ちと劣悪な家庭環境にもがき苦しみながらも、黒人青年との恋に生きる意味を見出していきます。しかし時代は、彼らの属するコミュニティは、被差別・被虐側の二人の恋を決して許さないのでした・・・。

たたみかける不幸が頂点に達する終盤がすごい

 とにかく主人公の少女の辛酸がすごい。中盤~終盤にかけ、これでもか、これでもかとサディスティックなまでに状況が悪化していく。何もここまでひどくしなくても。奥田英朗の小説みたい。実母の再婚相手である血のつながらない父親が、少女のお手製シャツを目撃するエピソード(読めばわかる)あたりから、これはまずいこれは後々絶対ものすごいやばいことになる、と読者には冷や汗が流れること必至。そして、作者も読者の予想を裏切らない残酷さで不幸を盛り上げに盛り上げます。

 これは言ってみれば、ドゥーム・スクローリングの心理と一緒で、電車が脱線する瞬間、車が正面衝突する瞬間から目を背けることができない人間の性質を利用したような小説だと思いました。もうこれは絶対ダメだ、でも実際どうダメになるのか・・・と怖いもの見たさ・知りたさで追ってしまうわけです。少年・少女の悲劇を傍観している結構悪趣味な小説かもしれない・・・。

あまりの凄惨さに図書館への排除要請も

 一応、この小説は対象年齢を設定しているようで、アマゾンでは「9年生(日本の中三)以上」、つまりアメリカでは高校生以上向け、となっている。確かにこの小説は高校生以下はきつい。いや、高校生でも人によってはきついだろうと思います。2021年の全米図書館協会発表の抗議が多かった本ランキングの第4位ということで、一体どこが問題なんだろうかと思って読んでみたけれど、問題の箇所はそこに行きあたったら、ああここね、とすぐわかるはず。図書館への排除要請の理由に「露骨な性描写」とあったけれど、実は性描写は露骨ではない。結構ぼんやりと文学的に書いてある。しかし問題は、やっていることの内容。性描写ではなく、あの「虐待内容」が問題なんだと思います。作者は、人種差別に翻弄される無垢な魂の悲劇を真面目に書いたようなことを言っていますが、どちらかと言うと「女性抑圧」「児童虐待」「性差別」「家庭内暴力」「性暴力」の小説になってませんかね。

 ちなみに、バージンと信じていた義理の娘の美少女に彼氏がいたと知って逆上し、継父がこの小説の問題場面とほぼ同じような仕返しをする官能小説を学生時代に友人と回し読みして爆笑した思い出があります。まさか、あのエロ小説みたいなことはしないよね・・・?と思ったら、本当に同じようなことをしやがったので、苦笑してしまいました。ここまでやると下品、悪趣味ですらある。すぐ図書館に「禁書にしろ」と訴えるモンスター・ペアレンツにはまったく賛成できませんが、この小説に関しては、青少年向けの小説でここまでやる必要はあるのかなというモヤモヤ感は少し私も感じました。

英語難易度はそれほどでもない

 YA小説ということで、英語はそれほど難解ではない感じ。しかし410ページと結構長め。前半の展開がゆっくりで、まるでじゅうぶんな助走の時間をとって速度を上げて衝突事故を起こさせているような感じ。この長さが無いと後半の悲惨さが際立たないんでしょう。終盤はあまりの悲惨な展開に、気付けば一気読み、となるはず。

 多少長さはあるけど、ダークでヘヴィな歴史ものにひたってみてもいいかなと方は是非。

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