『Beyond Magenta(カラフルなぼくら)』トランスジェンダーのティーンが当事者目線で語ってくれる

 あなたには、トランスジェンダーの知人や友達がいますか?
 あるいは、トランスジェンダーが家族や親族にいらっしゃいますか?
 あなたは、自分をトランスジェンダーかもしれないと思ったことはありますか?

 上記質問への答えは、多くの人が「ノー」ではないでしょうか。つまり、トランスジェンダーの方々と直接話をする機会が無く、知っているのはカミングアウトしてテレビ等で活躍している有名人だけ、という人が大半だと思います。私もそうです。だから、正直、わからないことだらけです。

 私は、過去記事でJ・K・ローリングがトランスジェンダーに関する意見を発信して炎上作家と化している問題などを取り上げてきましたが、トランスジェンダーというのは何か人生で自分が決して関与することのない/することのできない、遠い世界のようなぼんやりした感じしかありませんでした。「トランスジェンダーの気持ちも、J・K・ローリングの気持ちも、どちらもピンと来ない。いやー、でもJ・K・ローリングのやってることって殺害予告とかされるほどひどいことなのかなあ・・・」くらいな、何か重大なことが起こっている感じがするんだけど、遠すぎてよく見えないし近づく方法もわかんないや、というていたらく。

 それがぐんと近くに見え、リアルに感じられるようになったきっかけがこの一冊、スーザン・クークリン(Susan Kuklin)著の『Beyond Magenta(カラフルなぼくら)』です。


題名は『カラフルなぼくら』でいいのか

 著者のスーザン・クークリンは、アメリカ人の作家であり写真家でもある方。青少年を応援したい方なのか、他の著作もティーンの妊娠、刑務所に収監された青少年、不法移民の若者たち、難民問題・・・と社会で困難を経験しているのに声が届きづらい少数派の若年層の問題を取り上げています。
 この本では、実は著者の考えが書いている部分はほとんど無く、著者がインタビューしたティーンネイジャーたちの肉声が文字起こしされているだけ。あまり話にまとまりがない子もいるし、かなりありのままを掲載していると感じます。そこに著者の誠意を感じるし、その言葉をうまく引き出したのは著者であり、これまでも青少年の心に寄り添おうとしてきた人だからこそ実現できた本なのがよくわかります。
 しかし、この邦題は・・・著者さんはご存知なんでしょうか。許可したんでしょうか。『ぼくら』はまずくないですか? 人称の問題(He, She, They)はこの本に繰り返し出てくるトピックで、「He」「She」のどちらで呼ばれたいか、あるいは、どちらでも呼ばれたくないというこだわりは登場する子たちにとって大切な問題だったはず。「ぼくら」に入れられたくない、入れない子も出てきているのに。それこそがこの本の言いたいことなのでは・・・。『カラフルな私たち』『カラフルな我ら』とかにしないと! 『カラフルなぼくら』じゃ、本の内容と矛盾しているように思います。

登場するトランスジェンダーのティーンたち

 本書に登場するのは、6人のティーン。
 これがまた「トランスジェンダー」というひとつのくくりで語っていいのかというくらい違っていて、もしかして意図的にそうした?というくらい「カラフル」。読んでいるこっちまで元気が出るようなポジティブな子もいれば、読むのをやめてしまいたいような辛い人生を送っている子もいる。その違いは、著者の伝えたいことのひとつなのかも。

 トランスジェンダーと言ってもいろいろ。
 その呼び方は、社会が彼らを理解するのに便利だから作られたラベルに過ぎない。
 一人一人をよく知って欲しい。
 社会の大多数を占めるバイナリの人たちだってそうでしょう? 
「君は女だから○○だよね」「男だから○○なはずだ」、そう言われたくないでしょう?

 そんなメッセージが感じられます。

 残念なのが、6人のティーンのインタビューの中で、一番面白い二人が最初に来てしまっていることでしょうか。これは私だけかと思ったら、他の読者のレビューでもそこを指摘している人がいたので、やっぱりちょっと残念な構成になっているんだと思います。

 冒頭のアジア系の子は、国際的な家庭で育っているため、性別変更の際にパスポートの問題が出て来たりすることなんかも語っていたり、語りに彼の人間的な頭の良さ、性格の良さが出ていて、何より楽しそうな人生を送っているのがいい。この第一章だけ読んでも、かなり当事者感覚が感じられる。自分は同性愛者だと思うところから始まり、そうではなくトランスジェンダーなのだ、と自認する流れやホルモン治療の体験など、後に続くティーンのインタビューで共通することの多い内容もほぼすべて入っています。バランスのいいインタビューになったから、冒頭に持って来たのかな。

 そして、私のお気に入りは二番目の子! なんか映画みたいなんですよ。だって、男子校に在籍しながら、「私は女子」ですよ? 日本でこんなことやったら大ヒンシュクでしょうね。実際ものすごくもめて迷惑がられるんだけど、それでも自分を押し通し、その男子校初の女子の卒業生に。最後の方は、みんな「まあ、あいつだからしょうがない」で屈服している・・・なんか・・・受け入れられている・・・。なんというか、その、自分には絶対にできない「聞き分けの無さ」「自分の幸せを実現するのは自分だけ」、みたいな感覚がちょっとだけ羨ましいし、胸がすくんですよね。

アメリカの図書館で貸し出し禁止に

 私は、ひねくれもので、全米図書館協会が発表する、図書館に排除要請が相次ぎ貸し出し禁止になった問題図書ランキングをチェックしてそこから何冊か読むのが毎年の恒例行事なのですが(読んじゃダメな本ほど読みたくなります)、この『Beyond Magenta(カラフルなぼくら)』、2014年の刊行以来、そのランキングによく登場します。2021年第10位、2019年第2位、2015年第4位。

 (2021年の問題図書ランキングはこちらの過去記事をどうぞ↓)

 このランキングがきっかけで本書を読んでみたわけですが、やっぱりこれにランクインする本は、面白いですね。つまり、アメリカのまじめな親御さんから文句が来る本(図書館に抗議するのはほとんどどがこうるさい親たちです)は、読者や司書さんにある程度の人気がある本であり、かつ、どこか人の感情を刺激する「何か」があるわけで、毒にも薬にもならない優良図書より面白いわけです。

 この本で、一番大人がギャーギャー言ってるのは、第三章の「マライア」。かなり荒れた人生を生きている子で、なんとか助けてあげられないものかと私は胸を傷めながら読んだのですが、うるさい親御さんたちが読んでいるのはその中のたった数行のようで・・・。

「6歳の時、オーラル・〇○クスをした。気に入った。」

 それって、その子がいかに異常な幼少期を送ったか、その後もそれがいかに尾を引いているのか、そうした生い立ちがいかに子供を壊すか、そういう意味で載ってるんだと思うんですよ。著者は、その子を言葉をそのまま載せただけで「そういった行為はいいことです」なんて一言も書いていないのに、抗議する人は「著者は幼児虐待、幼児性愛者を肯定している、宣伝している」、なんですよね。絶対、全部読んでいない。この本を借りて読むくらいの歳の子で、問題の箇所を読んで、それをしていいことだととるおバカちゃんはいないと思うんですけどね。

 アメリカって、場所によってはものすごく保守的なので、この本が発する「トランスジェンダー全面肯定」「応援してるよ」的なスタンスそのものが許せない親御さんも多いようです。本や教育を変えれば、世の中からトランスジェンダーとかゲイを減らせると真剣に想っていらっしゃる一派が本当にいるわけで、もしそんな親御さんのもとにトランスジェンダーの子が生まれたら・・・・・・考えるだけでゾッとします。

なにが彼らを分けているのか

 つまり、その親御さんたちは、この本の重要なメッセージを読み落としているわけです。
 本の中にやたらリア充で希望に満ちている子と、この子どうなっちゃうんだろう大丈夫だろうかと抱きしめてあげたくなるような心配な子が出てくる、その落差がすごいというのは前述しましたが、何が違うかというと「家庭」「両親」なんですよ。
 幸福度、自己肯定感高い子は、親がやっぱり彼らの決断をサポートしている。当初はとまどい、否定したとしても、決して見捨てず、最終的にしっかり親としての愛を貫いているわけです。対する辛い人生を送るトランスの子の家庭は・・・やっぱり機能不全の愛の無い家庭なわけで、親の立場で読んでいたらそこに必ず気がつくはずです。
 トランスジェンダーにとって、思春期は人生で一番つらく混乱し、決断を迫られる時期なわけで、それをそばで見ている親が重要じゃないわけが無い。この本を排除しようとしている親たちは、この本の自分の子供への影響を心配するより親としての自分の責任の重さを自覚したほうがいいんでは・・・。
 私は泣きましたよ、第二章に出て来た親の言葉に。

「この子にのどぼとけがあるのを見ると悲しくなる。(女性になるためのホルモン治療を)私が早くやらせてやらなかったから・・・」

「カミングアウトした子供にひどい言葉を返してしまった。その後悔は一生消えることは無い。私のようにならないで。お子さんを抱きしめてあげて。」

トランスジェンダー問題に関して目からうろこ

 とにかく、私のようにトランスジェンダーに関心があるのに知識が無くピンと来ない、という方にはお勧めの本です。やはり当事者に教えてもらうのが一番。私は、JKローリングのツイートや長文エッセイで、ある程度世間でもめているポイントは分かった気になっていましたが、この本を読んで、トランスのコミュニティがなぜ彼女を毛嫌いするのかよく理解できた感じがします。いろいろと、目からうろこ、腑に落ちるものがありました。それに関しては、後日また書きたいと思います。

 短い本で、写真のページも多く、あまり時間がかからずに読める、英語学習にも良い本だと思います。6章に分かれていてそれぞれあまり関連も無いので、1章ずつのんびり読むこともできますね。十代の子が平易な言葉で気持ちを語っているので、英語の難易度もそれほど高くないです。
(邦題は納得いきませんが)日本語版も出ているので、日本のティーンネイジャーで性自認に悩んでいる子にも是非読んでほしい。親御さんも、もしお子さんが悩んでいたら、さりげなくこの本をそのへんに置いてみて下さい。日本ではこの本と同じようにはいかないかもしれませんが、元気が出ると思います。君はひとりじゃない! きっと大丈夫だよ!!

コメント